第5 司法アクセスの強化

 1 日本司法支援センターの業務開始と今後の課題

 「いつでもどこでも誰でも」司法にアクセス出来る社会を実現するため、独立行政法人「日本司法支援センター」(以下は愛称である法テラスと略称)の業務が2006(平成18)年10月2日開始された。

 法人設立から6ヵ月という極めて短い間に全国50地方事務所、11支部、6出張所、10地域事務所、職員526名の大組織を立ち上げただけに、職員の採用、地方事務所の確保など、やらなければならないことは多く、法テラス本部そして各地方事務所のご苦労は大変なものであった。

 司法改革の中で市民に直接役立つ事業が目に見えるかたちで開始された意義は大きく、さらに、このインフラが法の支配を広げるため、将来さらに重要な役割を担うであろうことを考えると日本の司法にとって歴史的な意味を持つ事業開始といって過言ではない。

 事業開始後、1ヵ月を振り返ってみると、現場を担う正副所長を始めとする弁護士、そして職員の奮闘で各地方事務所の業務は順調に推移している。一方、改めて過疎偏在の解消など多くの課題も浮上している。以下では、各事業ごとに現時点の全国的な状況を確認するとともに、今後の課題を確認したい。

(1) 国選弁護人指名、通知業務

 最大の課題であった契約弁護士が9,000名を超え、ブロックごとの集中処理方式をとった土日体制も、90パーセント弱が当日中に、翌日も含めると100パーセント指名通知が行われ、特に週末に香川地方事務所で7件が集中したときも裁判所との情報交換によりスムーズな選任が出来るなど予想以上に順調である。

 契約弁護士が1人もいない遠隔地の支部がいくつかあり、その支部の国選弁護人の確保業務が難航している。当面は本庁からの派遣で対応しているが、契約を拒否している地元会員の説得、スタッフ弁護士の派遣などの対応も必要となる。

 各地では国選弁護報酬の請求支払業務がそろそろ始まっている。残念ながら、報酬基準が切り下げられた事件もある。国選弁護報酬全体の嵩上げ、さらに裁判員裁判、連日開廷など弁護人の負担が急増する事件についてのメリハリの利いた報酬決定の在り方など、会員が納得し、やりがいのある予算の獲得と配分ルールの策定が重要である。


(2) 民事扶助業務

 契約登録弁護士が7,000名を超え(なお、契約司法書士は3,000名を超えている)、2005(平成17)年同期を比較すると扶助相談の件数は2〜3割増加しており、開業当初の話題性を考慮しても扶助業務の拡大基調に変わりはない。

 会員数の少ない地方で、相談予約がかなり先でないと入らないところや、週1回か2回の相談担当弁護士を確保するのに苦労しているところも多い。偏在対策が急務であろう。一方、ニーズの拡大で予算枠の突破を気にしているところもある。

 扶助事件だけでなく有料相談も全国的に増加している。別項で触れているとおり、大阪弁護士会としても話題性のあるこの時期に、さらなるニーズの掘り起こしの工夫が求められている。


(3) スタッフ弁護士

 現在、過疎地域事務所に6名、国選扶助対応事務所に4名、地方事務所本庁(八王子を含む)に10名の合計20名が配属され、今年度中には、さらに、2〜3名追加配属される予定である。大阪弁護士会の会員も江差に1名、鳥取本庁に1名赴任しスタッフ弁護士として元気に活動している。また、現在、大阪も含め全国で養成中の59期弁護士が20数名いるので、次年度以降も初年度を上回るスタッフ弁護士が配属される予定である。

 過疎地域に派遣されたスタッフ弁護士は、ひまわり公設事務所に誰も名乗り出ない過疎地にも赴任したため、本当に依頼者がいるのかどうか心配された。しかしながら、人口わずか9,000人の江差町、あるいは、壱岐に赴任したスタッフ弁護士から極めて多忙であるとの報告もあり、過疎地における法的ニーズの多さを改めて実感させられる。

 マスコミはスタッフ弁護士の数の確保について厳しく批判し、弁護士人口論に直結した議論を展開している。医師の偏在問題を見ても分かるとおり、人口増と偏在問題は直結しないが、スタッフ弁護士の確保は日弁連、弁護士会の過疎偏在への取り組み、努力を示す象徴的な課題となっている。修習生の間では、スタッフ弁護士制度への理解が深まり、応募者は多いが、一方、養成事務所の数は質量ともに不足している。

 法テラスと日弁連は、修習終了後、直ちに法テラスが直接雇用し、その上で養成事務所に研修委託するという構想を検討しており、この構想の下では各地の都市型公設事務所をはじめ、修習生が「養成してもらいたい事務所」を養成事務所にお願いすることも可能となり、スタッフ弁護士養成のボトルネックがかなり改善されるものと期待される。


(4) 自主事業

 財団法人法律扶助協会が解散する2007(平成19)年3月末までに自主事業の受け皿を決めなければ刑事被疑者弁護援助事業、少年保護事件付添扶助事業、外国人の法律援助、犯罪被害者法律援助、ホームレス支援など数多くの人権活動の運営に支障をきたすことになる。日弁連は全て法テラスに委託するとの基本方針に基づいて法テラスと協議している。さまざまな課題(各事業の予算規模、その予想される費用、受け手の弁護士の確保の確認、償還の仕組み、コンピュータシステムの費用)を詰めており、委託を実現させるためには業務方法書の改訂などから逆算すると法テラスとの協議を12月には終える必要がある。

 委託にしろ、直営にしろ、その費用は(人件費を含め)全て弁護士会が負担することに変わりはない。すなわち、自主事業については、最大の課題は資金手当にある。12月7日の日弁連臨時総会で当番基金を継続する特別会費が承認されたが、今後拡大する資金ニーズの確保のため、扶助協会の残余金あるいは贖罪寄付などどのような方策が必要か、法テラスの行う寄付金制度との競合も予想され、資金計画をしっかり議論する必要がある。


(5) 情報提供業務とコールセンター

 新しく始まった情報提供業務は司法へのアクセス障害解消の目玉として注目される。現在、地方事務所窓口における情報提供専門職員による情報提供と、コールセンターのオペレーターによる情報提供の2種類が行われている。コールセンターは開始後1ヵ月で35,300件の電話を受け付けたが、これは年間40万件弱に相当し、100万件以上と予想した件数をかなり下回っている。

 少ない電話にもかかわらず、オペレーターの技量不足もあり、各弁護士会有料相談への転送は皆無に近い。無料サービスとして行っている大阪弁護士会と東京3会による電話ガイド、そして司法書士会の行っている電話による無料法律相談への転送のみがにぎわっている。

 各弁護士会の総合法律相談センターへの転送が殆どないことについて、法テラスは有料相談への転送を好まない人が殆どであると弁解する。地方事務所の無料相談への転送すら断る人が圧倒的に多いという。一方、弁護士が数分電話で事情を聞き、関係機関に振り分ける電話ガイドサービスについてはニーズが多いとして拡充が求められている。扶助の要件を満たさない人に対しては、有料相談が原則であり、無料の電話ガイドの増設は筋違いであるが、マスコミの評価は日弁連に好意的ではない。マスコミの理解を求めつつ、一方転送を好まず「直接」「電話」で「無料」のサービスを求める市民と向き合い、市民のアクセス障害を少なくするための方法をどう構築するか、電話ガイドを実施している大阪弁護士会としても難しい対応を迫られている。


(6) さらなる課題

 開業して1ヵ月、順調に滑り出した今、会内の関心は2009(平成21)年からの「本格的な被疑者国選」と「裁判員裁判」の開始に向けた「国選弁護人確保」の運動に動いている。この課題そのものは別項で検討されるが、その実務を担う法テラスは、それだけでなく遍在問題、犯罪被害者対応も含め、今後ともその業務を拡大し注目を浴びる存在となる。所長全員が弁護士である公的な組織が、(弁護士でなく)市民の方を向いた、しかも市民に頼りがいのある組織であると認知されるためどうあるべきか、中でも大阪弁護士会はその会館の中に地方事務所を設置する珍しい単位会として弁護士との連携がスムーズにあるその利点を生かしつつも、市民のニーズに謙虚に耳を傾け法テラスのサービスを含めた、総合的な司法アクセス充実のため努力する必要がある。


 2 総合法律相談センターの新たな役割

(1) はじめに

 総合法律相談センターは、1985(昭和60)年4月、被害者救済、少額事件、新分野の業務は別として、一般事件は会員の業務と競合することのないように補完的に行うとの基本方針で発足し、2006(平成18)年度で22年目を迎えた。しかし、今や、自治体との連携も含め市民に定着した相談センターとして全国でも最も活発な活動を続けているといえよう。発足当時の記録によれば、1985(昭和60)年度は、相談件数7,735件、自治体相談30,629件で直受が1,472件、紹介が642件で合計2,114件の実績となっている。委託を受けている自治体は91であった。負担金会費は2,018万円、推定収入は2億8,830万円である。

 しかし、今や2005(平成17)年度の実績では、相談件数は26,985件(3.5倍)、自治体相談が45,083件(1.74倍)で、直受件数が8,625件、弁護士紹介が4,971件で合計13,596件(6.5倍)に飛躍的に上っている。2005(平成17)年度の負担金会費は1億6,954万円で推定収入は25億1,525万円(9倍弱)で補完性の原則は形骸化し、会員の業務をサポートするとともに市民サービスの提供としての役割を果たしてきたことが数字上でも明らかである。

 ところで、2006(平成18)年10月、法テラスが業務開始をして、オペレーターが100人前後を擁する大規模なコールセンターが発足し、情報提供業務を開始し、無資力者については、法テラスの実施する無料相談へ転送され、扶助要件を満たさない相談者は有料相談として弁護士会の実施する相談センターに転送される業務が開始したが、法テラスの発足により潜在的な需要掘り起こしとなり、新たな法的ニーズの開拓につながることが期待されるとともに法律相談センターへの相談が減少することも予測され、総合法律相談センターの業務を今後どう展開するべきかが、事業戦略として問われている。


(2) 法テラスとの共働で新たな法的ニーズの開拓を

 法テラスの運営するコールセンターでは、茨城、島根、横浜、東京での試行での電話件数から、年間100〜120万件の相談が殺到すると予測していたが、実績数はかなり下回りそうである。コールセンターのオペレーターが不慣れなこともあり司法書士、行政書士を初めとする隣接士業との振り分けが重要となり、法律相談センターでも転送先として十分な対応態勢を整えなければ法的ニーズの掘り起こしにつながらない。現在、大阪弁護士会では法テラスの業務開始に合わせて電話回線の増設、オペレーター職員の増員さらに弁護士による電話ガイドの実施に踏み切り、さらに土曜日の法律相談の実施や年末年始の相談態勢の延長などを新たに実施している。さらに、法テラスとの委託契約の締結率を上げるために、法律相談センターの登録弁護士には締結を呼びかけ、質の高い弁護士の派遣を進めている。2006(平成18)年10月の法テラスの業務開始以来数ヵ月を経て次のような課題を戦略的に検討するべきであろう。

@ 電話ガイドによる短時間の法律相談の実施

 現在は、弁護士による電話ガイドは、オペレーターからの転送で弁護士が来館相談に誘導するためのガイドとして位置づけ実施しているが、誘導効果が認められていない。しかし、ガイドを実施した結果、市民サービスとして来館するまでもない簡単な法律相談を直接弁護士が回答することは有用なケースが多々あることが明らかとなっているので、「法律相談をしません」から「簡単な法律相談をやります」に路線変更して、10分から15分程度の簡単な電話相談を実施することを検討するべきであろう。
 現に東京三会では、平日の終日2名が直接電話相談を担当し、振り分けのうえ来館相談を案内して効果を挙げている。札幌も同様の相談を相当以前から実施している。司法書士会等が無料の電話相談体制を実施する中で弁護士会としても必要なサービスと捉えなければならない。

A クレサラ相談の無料実施

 法テラスの業務開始以来、法律相談センターのクレサラ相談は約4割減少している。この原因は、多重債務者の大半が無資力者で資力要件に該当するからであるが、扶助相談の結果、扶助事件として受任する場合が大半であるが、中には過払金返還が可能で必ずしも扶助事件としてではなく、法律相談センターからの一般紹介事件として受任可能なケースも多々あり得る。したがって、クレサラ相談に限らず扶助相談から受任する場合も、相談者に十分説明をした上で法律相談センターからの一般紹介事件として受任しうるメニューも追加するべきである。その選択は、相談者にあることは当然である。
 さらに、弁護士会としても被害者救済のためにクレサラ相談の無料化に踏み切るべきであろう。


(3) 法律相談センターの専門相談の充実強化

 法律相談センターは、質の高い法的サービスを提供するとともに質の高い弁護士を養成し、紹介する場として位置づけなければならない。

 現在、法律相談センターでは医療、労働分野について専門相談を1時間枠で実施している。弁護士業務の専門化は時代の趨勢であり、社会からも専門性が強く求められている。この社会的背景は、法曹人口の増加・法令や判例の複雑化・広告の解禁にあるといわれており、諸外国でも同様の傾向にある。しかし、専門相談を充実させれば、それはその分野に精通した一部弁護士を利するのみで、弁護士の差別化を招くのではないかとの特に若手からの批判も考えられる。

 現在、医療部会では、医療過誤事件に精通している弁護士名簿を作成して、未経験弁護士が事件を受任する場合は、精通弁護士名簿から共同受任できるようにサポート体制を整えている。今後も専門相談の充実強化を図る場合、若手を中心とする未経験弁護士についても受任の機会を平等に保障するために、精通弁護士との共同受任制度を確立しながら、専門分野を拡げるべきであろう。

 専門研修のインセンティブを高めるためにも、法律相談センターは事件経験の場としての役割を果たすべきである。

 今後は、市民を対象にした医療、労働のほか、欠陥住宅、相続・遺言、消費者問題、外国人問題などの分野や、中小企業のニーズにも対応して、事業再編、事業承継、知財、渉外などの実務研究会や私的研究会が組織されている分野にも拡げていくべきである。


(4) おわりに

 法曹人口の増加とともに、われわれは既存領域で弁護士間の競争を激化させるのではなく、新しい業務領域の拡大に努め、そのために多様な人材の養成が必要である。新領域の拡大のためには、専門性の高い弁護士が求められるが、そのためには、専門研修の受講とともに取扱経験が職業的専門家として必須の要件となろう。若手を中心として多様な分野へ進出するためにも、取扱経験の場として果たす法律相談センターの役割は今後一層重要となろう。


 3 法律相談センターと弁護士過疎偏在問題

(1) はじめに

 大阪弁護士会は、2つの弁護士過疎偏在(ないし司法過疎偏在)に取り組まなければならないと考える。
 第1は、大阪府下における過疎偏在に対する取り組みであり、第2は、近畿全体の過疎偏在に対する取り組みである。
 これらを検討するに当たっては、いずれも2004(平成16)年6月公布施行された総合法律支援法による日本司法支援センター(以下、「支援センター」という)との関係も意識せざるを得ないと思われる。


(2) 大阪府下における弁護士過疎偏在(ないし司法過疎偏在)について

 従来より、大阪には、弁護士が数量的に足らない地域過疎はないと言われてきた。

 つまり、大阪府下においては、大阪地裁支部管内に弁護士が0、1の支部(いわゆるゼロワン支部)や、日弁連の基準による弁護士過疎にあたる地域はなく、裁判所周辺に弁護士事務所が集まっているという意味で弁護士の偏在はあっても弁護士過疎地域はないということになる。

 また、実質的にも、大阪府下では自治体などにおける無料法律相談が張り巡らされており、弁護士に直接委任もできるし、さらに弁護士会館に行けば有料で各種の分野別法律相談・紹介制度があるというように法律相談網が整備されており、交通の便も良く弁護士へのアクセスが容易であるという意味でも弁護士過疎はないといえる。

 しかし、このように量・質的に充実した相談体制が他会と比較しても誇ることができるものであるとしても、最近の司法アクセス改善の取り組みが進んだことにより、様々の新しい課題が出てきている。

 まず、大阪では、2000(平成12)年に岸和田、2003(平成15)年に堺法律相談センターを開設した結果、大阪のすべての裁判所支部に法律相談センターが設置され、より市民の弁護士へのアクセスが容易になった。2004(平成16)年には、なんば法律相談センターを設置し、都心ならではの「夜間相談」や、「土曜相談」も実施することにより、さらに、2006(平成18)年4月にはより繁華でしかも安価な場所へ移転することにより、場所的だけでなく、時間的にもアクセスを容易にする努力がている。

 また、先に述べた支援センターとの関係において、民事については、扶助協会大阪支部の業務を支援センター大阪地方事務所が引き継いで、2006(平成18)年10月から新会館内で、生活保護世帯などを対象とした民事の法律相談や民事裁判などの代理援助事業を開始しており、それ以外の市民に対する相談は、従来どおり、相談センターで担当している。

 支援センターが情報提供を行うとしてコールセンターを設置し全国で1つの電話を設けた結果、開業当初は1日2800件近い電話がかかり、確かに法的需要を掘り起こしたが、コールセンターと弁護士会および弁護士会と隣接士業間との振り分けなどについて混乱が見られる。

 今後、この原因を明らかにし、適切な振り分けをすることが重要であり、さらに民事事件の相談、その後の事件処理に対して国費援助を拡大させ、さらに、市民にとって相談料が無料で地元で相談が受けられる自治体相談の拡充継続に努力する必要がある。

 一方、大阪弁護士会としては、市民のニーズにあった専門的かつ即応的な司法サービスを提供するため、支援センター開業に合わせて土曜相談を開始したが、今後、都市型の法律相談センターを拡充していくことが要請されるであろう。すでに、この要請に応えるものとして、2005(平成17)年4月に、大阪家庭裁判所近くに家事相談センターを開設したが、このセンターは家事事件という特定の相談だけを扱う大阪では初めてのものであり、相談数の約8割が法律扶助であったため、支援センターの相談場所の指定を受けることができた。

 さらに、市民の相談ニーズだけでなく、事件受任のニーズにまで応えるには公設事務所の拡充が検討課題となる。

 また、支援センターの援助対象外である市民に対して、弁護士費用についての権利保護保険の利用などを広げていくことも検討すべきである。


(3) 近畿全体に対する弁護士過疎偏在(司法過疎偏在)に対して

 大阪弁護士会も、近畿弁護士会連合会の一員として、少なくとも、近畿全体の過疎偏在を解消すべく努力すべきことは論を待たないであろう。

 大阪高裁管轄と一致する近畿には、まだ多くのゼロワン支部や、日弁連基準による弁護士過疎地域が存在する。

 ここには、まず、弁護士がゼロから数人という本来的な意味での弁護士過疎(司法過疎)が存在するのであるが、それについては、まず、法律相談センターの設置、そしてひまわり基金法律事務所の設置、という対応がなされてきたので、この点を概観する。

@ 法律相談センターの設置

 全国の司法過疎偏在を解消するため、日弁連では、1996(平成8)年5月の定期総会で「弁護士過疎地域における法律相談体制の確立に関する宣言」を行い、それに基づき、弁護士過疎地域の市民も容易に法的アクセスができるように、全国に法律相談センターを設置する取り組みを進めることとし、島根県石見法律相談センターが第1号として開設された。その後、全国に法律相談センターの設置が進められている。

A ひまわり基金法律事務所への弁護士派遣について

 法律相談センターが設置されれば法律問題解決の入り口は広がるが、相談後に事件を受任する段階になると、弁護士の過疎のため、相談者が負担する旅費日当などの弁護士費用が大きくなることから委任をためらうため、真にアクセス障碍が解消したことにはならない。

 これを解消するため、島根県に石見ひまわり基金法律事務所が第1号として開設され、近畿でも、2002(平成14)年10月に宮津ひまわり基金法律事務所が設置されたのを皮切りに、丹波、園部、亀岡、京丹後、山城と続き、今年2006(平成18)年は、御坊、新宮、龍野にひまわり基金法律事務所が設置され、洲本の設置も予定されている。現在、全国で70ヵ所を越え、所長が3代目となっている事務所もある。

 当初、ひまわり基金法律事務所への派遣弁護士を公募したが、順調に増えて行くに従い、新規の派遣と交代要員を確保するため、派遣弁護士を養成する制度が必要になり、いわゆる「協力事務所」が制度化された。

 55期の司法修習生から「協力事務所制度」が本格化し、全国で80近くが協力事務所として登録している。

 大阪は、登録事務所数としては決して少なくないが、「協力事務所」に就職した修習生数は、この間大阪3人に対して、東京3会併せて約30人であり(さらに、東京においては、いわゆる都市型の公設事務所が「協力事務所」の役割を担っていることも特筆される事実である)、東京の「協力事務所」から、実際に過疎地のひまわり基金法律事務所に派遣された数は、すでに20名を越え、近畿の熊野、柏原、御坊へも東京から派遣されている。

B 今後の課題

 前述の支援センターは、いわゆる過疎地においては、民事・刑事事件を担当し、過疎対策もその目的であるとされている。

 しかしながら、支援センターは独立していると言っても行政法人であるので、三権分立の建前から言っても、支援センターに安易に委ねるべきではない。

 さらに、従来、採算が取れないのではとされていた場所であっても、支援体制さえあれば、ひまわり基金法律事務所に見られるように進取の気性に溢れた弁護士により、新しい業務の場所として開拓されうるのである。

 大阪でも、すでに都市型公設事務所から過疎地へ応募した弁護士がいるが、近畿の一員として、より系統的に、都市型公設事務所を有力な過疎地対策のための協力事務所と位置づければ、過疎偏在対策に十分な役割を果たすことができる。

 例えば、東京ですでに実践されているように過疎地赴任を希望する弁護士に対して必要な経験を積ませて養成し、送り出し、戻って来るのを受け入れることや、再入会の際には、入会金や新入会員研修を免除するなどの制度整備が求められる。支援センターのスタッフ弁護士に対する制度整備が現在進められているところである。

 毎年、近弁連相談センターのブロック協議会では、大阪以外のすべての5単位会が弁護士過疎に悩む地域を抱えているため、単位会を越えて協力することが確認され、会員数が圧倒的に多い大阪に対する大きな期待が寄せられている。

 そして、2006(平成18)年10月に、被疑者国選が法定合議事件について開始されるにあたり、これを担う弁護士の確保や、休日体制などに取り組んだが、3年先の必要的弁護事件に拡大されるまでには、今回を大きく上回る取り組みが必要であり、その中でも近畿においては弁護士過疎の解消がとりわけ重要である。


第6 法曹養成

 1 法科大学院が目指すべきもの

(1) 法科大学院における実務教育

 法科大学院については、司法制度改革審議会意見書(以下、同意見書という)において「司法試験という『点』のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた『プロセス』としての法曹養成制度を新たに整備すべきである。その中核を成すものとして、法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を設けるべきである」と、そのあるべき姿が提示され、司法改革の中核を担う法曹の養成に大改革がなされた。2004(平成16)年4月に、法科大学院が開校され、学生は、入学後2年または3年の法科大学院を経て、卒業後に新司法試験を受験し、合格後に1年間の司法修習を行うという新しい法曹養成となった。

 しかし、現状は、多くの問題点があり、意見書にある法曹養成のあるべき姿の実現ができるかどうか予断を許さない状況となっている。


(2) 法科大学院の設立状況

 大学側も、法科大学院の準備当初には同意見書の期待に応えるべく意欲的な取り組みを行っていたといえる。しかし、少子化時代の生き残りをかけて、法曹養成の理念よりも経営を優先したかのように、あまりに多数の大学が法科大学院の認可申請をするという事態になり、新司法試験が当初予定された7 − 8割が合格するというものよりはるかに難易度が高いものにならざるを得なくなったことから、大学側の状況は一変し、現状では、多くの大学において、「質の維持を図る」という理想的な法曹の実務教育よりも、いかに新司法試験の合格者を多く出せるのかという議論がなされるようになってしまった。

 また、教員についても、法科大学院にふさわしい教員が誰かということよりも、設置認可申請ができるよう、数あわせを優先したものとなってしまった。

 2004(平成16)年度には68校が法科大学院として認可され、1学年定員の総数は5590名となっていたが、2005(平成17)年4月に新たに6校が開校し、これによって、法科大学院は74校となり、定員も235人増えて、5,825人となった。


(3) 法科大学院の問題

 現状の法科大学院には多数かつ重大な問題が存している。

 まず、最大の問題は、同意見書の「卒業者の合格率を7〜8割にする」との構想の実現である。法科大学院への参入が自己規制されるのではないかという期待とは異なり、先述のとおりの約6000名もの定員を有する事態になってしまった。法科大学院が定員どおりの卒業生をだすことを前提とし、卒業生が、3回の受験資格があることからすると、このままでは2、3割程度の合格率にしかならないという情勢にある。

 ※3000人÷〔6000人+(6000人 − 3000人)×2〕=0.25

 一方、短期的には、2006(平成18)年からの5年間は現行司法試験と法科大学院卒業生の受験する新司法試験とが並存するが、その間の合格者の割り当てがまだ明確にきまっておらず、2005(平成17)年度は、その点が問題となった。2004(平成16)年10月に法務省が初年度(2006(平成18)年度)の全体の合格者を1600人、新試験の合格者を800人、合格率34%とし、その後も合格率は20%前後で推移するとした素案を発表し、これに対し、「法科大学院を創設した理念に反する」「学生に対する裏切りだ」などの批判が関係者から噴出した。結局、2005(平成17)年2月28日、司法試験委員会は、初年度の新試験の合格者を900〜1,100人、並行して行われる現行試験の合格者を500〜600人とし、2年目の新試験は受験者の激増が予想されるため、合格者を初年度の2倍程度とすることを決めた。結果、2006(平成18)年度の第1回の新司法試験では受験資格を有した者が2,125人で、合格者は1,009人、合格率は48.35%となった(一方、旧司法試験の合格者は論文式試験の合格で542名)。今後とも、ロースクールが法曹教育の中核であるという制度改革が中途半端なものとならないように、十分注意する必要がある。

 しかし、根本的には、この事態は、法科大学院が法曹に向くであろう人材をきちんと選別して入学させ、きちんと力をつけた者しか卒業させないこと、また、終局的には力のない法科大学院が撤退することでしか解決がつかない問題ではある。この「力」の評価は、単に新司法試験の合格者や合格率で決められるのではなく、あるべき実務法曹教育の観点からなされるべきである。

 新司法試験については、内容として、今までの予備校的な受験技術では対処することができないようなものであり、概ね評価されているところであるが、短答式の問題が必要以上に難しく、優秀な人間でも足切りされており(論文の採点をしてもらえない)、さらに改善していく必要がある。また、問題の内容だけでなく、採点基準にまで踏み込んで議論する必要がある。良問であるだけに、法曹の卵としての力のある者がよい成績をとったようであるが、果たして、1000番ちかくの合格ボーダーの人を適切に選別していたものかどうかは、さらに検証していかなければならない。この点については、問題の内容もさることながら、採点基準に大きな意味があり、2007(平成19)年度の新司法試験からは、今年の新司法試験の不合格者が、1年間ロースクールの授業を受けずに、座学して参加してくることから、法曹に必要な力というよりも、むしろ受験技術を習得してくる事態も予想され、過去の司法試験が陥った論点主義(内容が十分にわかっていなくても事前に覚えこんだ答えを記載すれば得点を重ねることができる)に堕しないように、十分に注意しなければならない。また、非法学部からの優秀な人材がロースクールに入学し法曹として教育され、法曹資格を得ることが大変重要であるところ、新司法試験の内容が、非法学部出身者が3年の勉学で達成できる程度のものとなっているのか、さらに検証を深めなければならない。いずれにせよ、どんなに工夫しても試験で測れる能力は所詮限られていることを忘れてはならず、意見書でいうプロセスとしての教育をまっとうするためには、法科大学院の教育の内容をより充実したものとしなければならないのであるから、間違っても、いかなる意味でも新司法試験の内容が法科大学院の教育の内容を制限するものとなってはならない。特に、必らずしも直接新司法試験の受験には結びつかないエクスターンシップやクリニック、司法試験の選択科目ではない専門科目などを充実することこそがプロセスとしての法科大学院教育の真価なので、新司法試験のためにこれら科目がおろそかになる事態は避けなければならない。

 授業料も国立大学で年間80万円くらい私立で120〜140万円が多く(最低76万円、最高200万円)、3年制を前提にすると、1年120万円としても合計360万円もの負担となる。しかも、修習生の無給制が導入されれば、修習終了時の借金は総額1500万円にもなるとの試算もされている。もっとも、奨学金は充実しているとも言えるが、貸与型の奨学金は基本的には借金であることには変わりがない。この負担をどう吸収するかが、よき人材が法曹界に入ってくるかどうかの試金石でもあり、実際の必要性を見て、十分に注意することが必要である。

 他方、各大学のカラーの打ち出し方は多種多様であるが、企業法務や渉外弁護士(国際派弁護士)の養成をキャッチフレーズにしている大学が圧倒的に多い。

 以上のようなことから、現状の法科大学院は、多くの点について、あるべき姿から遠いものになっていく危険性があり、弁護士会は、これをできるだけ理念に近づけるべく、以下の項目について、重点的に取り組んで行かなければならない。


(4) 法科大学院の実務関連科目に対する弁護士会の関与の必要性

@ 受験技術偏重の排除とリーガルマインドの育成

 大学側における実務関連科目の準備状況は、実務家として何をどう考えるべきかという教育内容が充実する方向にはなく、多様な先端科目・実務関連科目の授業が開講されるような状況にはない。また、エクスターンシップ(ロースクールの外へ出て、実務的な経験を通じて学ぶ制度。弁護士の下では、現在の実務修習がイメージされている)やクリニック(学生が実務家として実際に仕事をするなかで学ぶ制度。米国では各州がロースクールの学生に代理人や弁護人として指導教授の付添を条件に依頼者を代理したり、法廷に出ることを認めており、そのような活動を通じて学ぶ。また、同時に各種シュミレーションの授業を行うことがセットになっていることが多い。これをすべて日本でやるには法改正が必要であるが、一部であれば取り入れることは可能である)といった実務関連科目についても十分な準備がなされていない。弁護士会としては、情熱と能力のある実務家教員が各法科大学院に行くことを通じて、また、そういう教育が実務家養成へきわめて重要であることを絶えず訴えることを通じて、これらの充実に助力するべきである。

A ロールーム構想

 実務とは多様なものであり、また、種々の専門性が求められている。このような科目について、法科大学院での授業が行われるべきである。また、実務関連科目についてどのような教材を用い、何をどのように教えれば、良い実務家が育成できるのかについて、弁護士会では、研修所教育を前提とした蓄積はあるものの、法科大学院において何をすべきかという点については、その研究は緒についたばかりである。

 このような多様な科目を関西の法科大学院において横断的に教えようとするのが大阪弁護士会のロールーム構想である。実務家が法曹養成に果たす役割を考えれば、また、多様な科目が各ロースクールで教えられている現状にないことを思えば、このロールーム構想は是非とも実現し、弁護士会として、法科大学院の教育に組織的・継続的に関与していかなければならない。ただ、ロースクールの立ち上がり時においては、文部科学省の実務への無理解もあり、また、ロースクールの文部科学省への遠慮もあり、広汎な支持を受けることはできず、ロールーム構想はきわめて制限された中で実現したにすぎない(現在、3校が3科目についてロールームの講座を開設しているが、複数の大学に開かれたものとはなっていない)。ロースクールのカリキュラムの現状が、大変忙しいものであることからは、当初の計画であった通常授業時の時間割に組み込む形での実現は困難であるが、2004(平成16)年から3年後のカリキュラムの見直し時において、多くの実務家教員が辞任して、重要な実務関連科目が各ロースクールで単独で授業できなくなることも予想され、その場合削減された科目の現実的な受け皿としても、また、後継の熱意と能力のある実務家教員の養成のためにも、この構想を春や夏の通常カリキュラムの休暇時期の集中講座などの形で維持する必要がある。

B エクスターンシップ・クリニックへの協力

 本来、法学大学院単独では行い得ない、エクスターンシップやクリニックの実施について、弁護士会は協力をすべきである。エクスターンについては、2005(平成17)年春からすでに実施されたが、プログラムをより精鋭化し、より充実した体制づくりに励まなければならない。また、全国的には有力なロースクールがこれらの科目を一切持たないという事態も生じており、実務家教育にこのような臨床教育がいかに必要であるかを訴えていく必要がある。

C 実務家教員間の相互交流と情報交換に関する弁護士会の支援

 実務関連科目を充実させるためには、実務家教員の教育方法についても、弁護士会はバックアップをすべきである。ことに、教育方法についての研究・研鑽は、アメリカなどと異なり、大学においてもなされておらず、ましてや弁護士は、研鑽を受けたことはあっても、教育方法についての研究・研鑽を重ねたことはほとんどない。また、ロールプレイングやソクラティック・メソッドなどの新たな教育方法についても、実務家教員間で相互交流と情報交換を図ることが必要であり、その支援を弁護士会が行う必要がある。

D 教材の開発

 また、教材の開発についても、実務に沿った模擬記録とその解説の作成など、実務関連科目の講義・演習に必要な教材を開発する必要がある。

E 法科大学院との交流の拡大・強化

 さらには、法科大学院において、実務関連科目が適切に行われるように、弁護士会からの要請が必要であり、そのためには、法科大学院との交流をより一層拡大・強化しなければならない。


(5) 第三者評価機関の重要性

 法科大学院の教育に対する評価を正しく行うために、適切な第三者評価機関の設立が急務である。弁護士会主導の第三者評価機関として、日弁連法務研究財団が認可され、弁護士会はこの活動を全面的に支援していかなければならない。


(6) 予備試験

 現在の制度設計では、予備試験が残る。これについて、日弁連は、受験資格を資力要件などで絞り込むことを提案したが、受け入れられなかった。

 しかし、「法科大学院卒業者と同等の基礎的素養を有するかを判定」することが定められた。予備試験は、実際は法科大学院へ行かずに予備校で受験勉強をした者が受験することが想定される。したがって、これからの法科大学院の卒業者の基礎的素養の養成が、予備校などでも対応可能となるようなものにでもなれば、予備試験も勢い技術的なものとなってしまう。しかし、予備校では対応できない程の充実したものになれば、法科大学院で学ばなければ法曹資格を得られない、ということになるであろう。この意味でも、法科大学院の教育内容の充実(財政的援助も含めて)は必須のものである。


 2 新司法修習制度の問題点と課題

 2006(平成18)年度から司法修習制度は、2005(平成17)年度の現行司法試験合格者を中心に採用される司法修習生(60期)1,466名(内大阪158名)に対する修習(以下「現行司法修習」という)と、2006(平成18)年3月に法科大学院を卒業後、第1回目の新司法試験合格者から採用される司法修習生(新60期)1,009名(内大阪171名)に対する修習(以下「新司法修習」という)が実施されることになる。

 2006(平成18)年度の現行司法修習は、2006(平成18)年4月から2007(平成19)年8月までの1年4ヵ月間(前期修習2ヵ月、実務庁・分野別修習1年、後期修習2ヵ月)、新司法修習は、2006(平成18)年12月から2007(平成19)年11月までの1年間(研修所・導入研修1ヵ月、実務庁・分野別修習7ヵ月、実務庁・選択型修習2ヵ月、研修所・集合修習2ヵ月)実施されることになる。

 ここでは、新司法修習の問題点と課題について述べる。


(1) 期間のさらなる短縮にどう対応するのか。

 現行司法修習では1年4ヵ月の実務修習(弁護修習3ヵ月)が、新司法修習においては、1年(弁護修習2ヵ月)に短縮される。

 こうした期間短縮の結果、これまで合同修習として実施してきた刑事弁護ゼミ(捜査、公判、総括)については何とか盛り込むことができたものの、民事交互尋問や、障害者施設等における3日間の社会修習については盛り込むことができなくなった。

 選択型の個別修習プログラムの一つとして予定しているが、全修習生が受けられるものではない。

 これらのプログラムは、大阪弁護士会が、指導弁護士のみならず多くの若手のスタッフ弁護士の多大な協力を得て実施され、その効果は、単に起案力や実務上の技能の向上に止まるものではなく、事件に取り組む姿勢など弁護士としての心構えなどをも学ぶ格好の場であり、基本的人権の擁護の実践を直接体験できる極めて貴重な場であった。

 実務修習が、技術的な事項に止まらず、修習生の心の琴線を呼び覚ますものとなるように弁護士会を挙げて英知を絞らなければならない。


(2) 選択型実務修習の在り方と具体的プログラムの策定

 選択型実務修習(2ヵ月)は、原則として、分野別実務修習で配属された弁護士事務所をホームグラウンドとし、原則として、配属修習地内において、当該実務修習庁会の提供する個別プログラムの中から修習生が選択したプログラムの修習を受けていく制度(個別修習プログラム)である。また、応募により全国プログラムの選択もできるが、対象者は選別される。

 全国プログラムは、裁判所が提供するのは、東京及び大阪の知財部修習、検察庁が法務省での法務行政修習、弁護士会が東京及び大阪での渉外事務所及び知財事務所での修習である。

 特に、全国プログラムが、こうした一部の分野に集中することが、果たして法曹界が国民から期待される役割と合致しているのか非常に疑問である。

 全国プログラムの内容をもっと幅広くすることや、個別修習プログラムにおいて、刑事、労働、家事、医療、消費者、公害環境、子どもの人権など、これまで弁護士会が基本的人権擁護のために心血を注いできた分野のプログラムをいかに魅力的に提供することができるかが非常に重要である。


(3) 大阪弁護士会の受け入れ体制

 大阪では、60期では現行・新併せて329人もの修習生を受け入れる。

 指導担当弁護士の確保が急務であるばかりか、模擬裁判、刑事ゼミ、専門分野修習などを実施するための多数のスタッフ弁護士の確保が不可欠である。現在、スタッフ弁護士など若手弁護士に集中しているのが現状であり、今後は、若手弁護士の負担過多とならないように、もっと幅広くベテラン及び中堅の弁護士にも協力してもらう体制が必要である。

 弁護士会全体で、次世代の質の高い法曹を育てていくというポリシーが徹底されねばならない。なぜならば、未熟な法曹が蔓延することは自らの地位を貶めることになるのみならず、国民の権利をも弱めることになるからである。


(4) その他の諸問題

 修習生の給与制の廃止や、就職協定の撤廃か維持かなど他にも、多くの問題が山積する。

 3,000人問題は、遠い将来ではなく、もう目の前に来ていることを認識して早急に諸問題の解決に当たらねばならない。


第7 法教育の展開と課題

 1 法教育とは

 「法教育」とは、1978年に制定されたアメリカの法教育法のLaw Related Education(LRE)の訳語である。同法でLREは「法律専門家でない人々を対象に、法、法(形成)過程、法制度、これらを基礎づける基本原則と価値に関する知識と技術を身につけさせる教育」と定義されている。


 2 法教育の必要性

 現代の法治国家で生きていく以上、市民が法律や司法制度と無縁であることはできない。市民が自分の権利を適切に行使し、他人の権利を尊重して社会生活を営んでいけるようになるためには、法や司法制度、及びそれらの基礎にある原理の理解が不可欠であり、法律専門家である弁護士は、子どもたちに、適切な時期に、法的思考の仕方、法制度、法律専門家へのアクセス方法等を教える必要がある。

 また、無罪推定、黙秘権等の刑事裁判の諸原則を市民が自らの血肉として理解することは、自らが被疑者・被告人となった場合に適切な権利行使を行うため必要であるし、実施が目前に迫った裁判員制度を成功させるためには、証拠の多面的な見方があろうことを知ることが望ましい。


 3 これまでの実践

 大阪では、1998(平成10)年、子どもの権利委員会のメンバーが中心となって、出張授業用冊子「法むるーむ」を作成するとともに、中学校・高等学校への出張授業(大講堂での講演形式ではなく1クラスに1人の弁護士を配置して授業を行う)を開始した。また、刑事模擬裁判指導、法廷傍聴の引率、春・夏休みにおけるジュニア・ロースクール(中2・中3生及びその保護者を対象として2日間連続で実施)、高等学校における社会科教師と協同での法教育授業実践等の活動が行われてきた。その後、これらの諸活動を統一的・一元的に行うべく、法教育プロジェクトチーム、司法改革推進大阪本部法教育部会を経て、2005(平成17)年3月、法教育委員会が設置された。

 近年の主な活動としては、2005(平成17)年12月10日の高槻市立阿武野中学校地域教育集会への協力(現役法曹三者によって裁判員制度を念頭においた模擬裁判が行われ、生徒たちが評議を行った)、2006(平成18)年1月28日の第1回高校生模擬裁判コンペ(4校の高等学校の生徒が立命館大学法科大学院模擬法廷において模擬裁判を実施し、他校の生徒と一緒に評議。これらの模擬裁判・評議・判決を、大阪地方裁判所裁判官・大阪地方検察庁検察官が講評)、2006(平成18)年8月開催の夏休みジュニア・ロースクール(大阪府教委が開催した中学生向けサマースクールの一講座を担う形で実施)等が挙げられる。

 近畿圏内の動きとしては、2005(平成17)年11月、近弁連法教育推進協議会が設置され、同月開催された近弁連大会で「充実した法教育に取り組む宣言」が満場一致で採択された。同協議会の設置を機に、今後、各単位会の委員による共同での法教育実践や経験交流等が行われる見込みである。各単位会の連携による、法教育の更なる発展が期待される。


 4 今後の課題

 大阪では全国に先駆けて法教育の実践が行われてきたが、そもそも「法教育」として子どもたちに何を教えるべきかについての議論は未だ不十分である。法的思考の基礎にある基本原則(自由、公正、正義等)、それらを基礎とした現在の法制度とその具体的利用方法、実際の法の適用場面等を、子どもたちに、いつ、いかにして教えるべきかにつき、子どもの発達段階に応じたきめ細かい議論が求められる。

 また、大阪府下の小学生・中学生・高校生に対する法教育実践をさらに広げるためには、多くの弁護士が学校に赴いて法教育を行うことが好ましいが、これに加えて、学校で実際に法教育を担当する教師を弁護士がバックアップすることも必要不可欠である。各学校に対する法教育アドバイザーの役目を担う弁護士の広がりが求められる。

 国レベルでも、法務省内に設置された法教育研究会が法教育教材を発表し(『はじめての法教育』(ぎょうせい刊))、同省内に法教育実践協議会が設置された。平2005(成17)年には文部科学省が教育委員会に法教育の実践を委嘱し、「法教育実践研究」校に指定された中学校の3年生を対象として、上記教材を使用した法教育実践が行われた。大阪弁護士会法教育委員会は、大阪府内の指定校2校(高槻市立阿武野中学校・東大阪市立盾津東中学校)における法教育の授業に全面協力した。

 われわれ弁護士は、公教育における法教育が正しい方向に向かうよう、しっかり見守って行く必要がある。


 5 法教育の醍醐味

 弁護士が法教育に携わる一番の醍醐味は、自らが担当した事件の経験に基づく熱い思いを生徒たちにぶつけたときの、生徒たちの好奇心に満ちた、真剣な、輝く目にある。将来を担う子どもたち、そして、法教育を担う教員に対し、フットワークの軽い若手弁護士から、子どもたちに語るに足りる豊かな経験を積んだ熟練弁護士に至るまで、われわれ弁護士が伝えていけること、伝えていくべきことはたくさんある。


第8 大阪地域司法計画

 1 地域司法計画の意義

(1) 地域司法計画とは

 地域司法計画とは、各地域における司法の現状と課題を調べ、これからのあり方を提示しようとするものである。医療における地域医療計画にヒントを受け、中央集権的、官僚的な司法制度を改め、地域に根ざした市民の司法を実現しようということから、2000(平成12)年ころから始まった取り組みである。これまでに47弁護士会と1連合会で作成され、大阪では、司法改革推進センターが2001(平成13)年3月に「大阪地域司法計画(第1次案)」を作成している。

(2) ねらいと成果

 地域司法計画により、各地の裁判官、検察官の不足や、裁判官が常駐しない支部の問題などが明らかになり、その後、日弁連が裁判官・検察官の倍増を求める意見をまとめる際の原動力になった。また、弁護士の過疎、偏在も明らかになり、弁護士の増員を打ち出す弁護士会が増えた。

 地域司法計画は、司法を住民・利用者の視点から捉え直すきっかけになった。各地の司法は住民の権利を護っているかという視点で、地域の法的問題ごとに実情を調べ、課題を明らかにするものもある。

 そして、地域司法計画の取り組みは単に計画を作るというものではなく、司法を地域の観点からとらえ、改革を実現しようとする運動である。大阪ほか9弁護士会が地方議員に対するアンケートを行い、また、地方自治体、地方議員、住民団体などとの懇談や、裁判所への情報開示請求、地方議会に対する裁判官増員の決議要請などの運動が行われた。現在は、地域司法計画のバージョンアップ、インフラが貧弱な「支部」の問題、情報が開示されない「庁舎建替」の問題が中心的な課題となっている。


 2 大阪地域司法計画を軸にした取り組みの必要性

(1) 第1次案は第1歩

 大阪地域司法計画(第1次案)は、大阪の司法について、次のようなことを明らかにした。弁護士については、95.7%が大阪市内に事務所を有するなど、極端に偏在していることを明らかにし、公設事務所の設置、府下の事務所設置への援助など、弁護士へのアクセスを改善する方策について提言した。裁判所については、裁判官の不足を指摘し、必要な増員数を明らかにした。また、枚方地域と東大阪地域の法的需要が大きいことも明らかになった。検察庁についても、検事の不足、副検事の肩代わりなどを指摘した。

(2) 新しい計画の作成が必要

 第1次案は司法制度改革審議会の途中に作られたものであり、その後決まった裁判員制度、日本司法支援センターなどに合わせて、早急に作り直す必要がある。その場合、府内の紛争・事件の種別に法的な救済は図られているかどうか、また、弁護士の対応体制は十分であるかを検証することが望まれる。

 大阪では、裁判所に対する情報開示請求の結果、民事裁判において、人証、検証、鑑定が約5分の1に激減していることが明らかになっているが、今後、裁判所の人的物的インフラ整備を求めていく必要がある。

(3) 大阪の司法を作るツールに

 地域司法計画は、各地で司法改革を実現し、具体化する際のツールとなることが期待される。裁判員制度、裁判所委員会制度、弁護士任官、日本司法支援センター、弁護士の増員と需要に対する対応、法律事務所の偏在解消など、いずれの課題も、各地の司法の実情とあり方を提示する地域司法計画があれば、それを基に市民と法曹で考え、実現していくことが期待できる。また、堺支部の建て替えがなされるが、市民とともに新しい裁判所のあり方を考えることが望まれる。

 法曹人口のさらなる大幅増員論が一部経済界等から提案されているが、各地の実情を踏まえた地域司法計画があれば、必要で十分な法曹の量が明らかになり、このような提案に対する適切な資料となることも期待される。

 地域司法計画をツールとして、各地の司法サービスと司法制度の改革を進めることが望まれる。


第9 ADR基本法と今後の課題

 2004(平成16)年12月1日に裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR基本法)が成立し、2007(平成19)年4月1日から施行される。

 弁護士会が運営している紛争解決センターは、2006(平成18)年1月現在で、全国で20ヵ所(18弁護士会)に設置されており、大阪弁護士会では「民事紛争処理センター」という名称で運営している。

 隣接法律専門職種については、認定司法書士に一定の範囲(140万円)で仲裁手続の代理権、筆界特定手続の代理権が認められ、弁理士の仲裁代理業務が調停、あっせんを含む裁判外紛争解決手続についてのものであることを明確化し、ADR手続代理業務の対象に著作物に関する権利に関する事件が追加され、特定社会保険労務士に、一定の公的ADRにおける代理権と一定の民間紛争解決手続において紛争価額が60万円以下は単独の、紛争価額が60万円を超える場合は弁護士と共同の条件で代理権が認められ、土地家屋調査士には、筆界特定手続の単独代理権と、認定土地家屋調査士に一定の民間紛争解決手続において弁護士と共同の条件で代理権が認められた。

ADRが法的紛争の解決を図る制度として有効に機能し、また、法72条の趣旨に鑑み、当事者その他の利害関係人の利益を損ね、法律生活の公正円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することにならぬよう、弁護士会としてその運用の実態を注視し、不適切な点があれば見直しを提言していかなければならない。

 
                    
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